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日本語と英語ができると1+1=3になる

先に述べたニューヨークの日本人M&Aコンサルタントについて誤解のないように付け加えます。それは、この方がファイナンスの実践的な知識の点でもプロレベルにあることです。つまり、ただの通訳・翻訳ではありません。顧客の本当のニーズは彼の通訳・翻訳の力なのですが、ファイナンスの力があるために他の人には真似のできない仕事ができるようになっていました。

ぼくがこの時感じたことは「本業ができて、英語ができると倍以上の力になる」ということでした。ぼくは大学に入れずに浪人した際のことを思い出しました。都内の中堅の予備校でのぼくの順位は、得意だった数学が300位くらい、国語が400位、苦手の英語が500位くらいでした。

ぼくが驚いたのは3科目合計の成績が100番くらいだったことです。

その成績を見て、しばらく、その理由が分かりませんでした。普通に3つの成績を足して割ったら、400位になるはずだからです。よく考えてみて、大抵の人は一つの科目だけが飛び抜けているらしいと推察できました。ぼくの成績も科目ごとにかなりの凸凹があります。でも、ほかの人はもっと落差があって、数学ができる学生はとことん英語ができない、という具合のようでした。

多くの人は一つの実力で世の中を渡っています。しかし、英語ができる人材の中で日本語ができるというだけで、1+1=3になります。日本人から見れば英語が、外国人から見れば日本語が強みになります。これにビジネスが加われば3つの柱になり、1+1+1になります。この足し算は強力なシナジー効果を発します。英語が銅メダルの初期のレベルでも重宝がられるのは、この3重効果のおかげです。

ビジネス文書では帰国子女に勝るようになる

プロレベルの英語が話せる上にビジネスができれば、鬼に金棒です。帰国子女以上に優遇されるようになります。銀メダルはプロといってもまだ英語力35点です。にもかかわらず、日英の2カ国語が同等にできる人をしのぐことができるのです。

多くの方は帰国子女という言葉を聞くだけで、「英語に関しては何でも任せられる」と想像するでしょう。しかし、仕事力のないバイリンガルは英語と日本語の1+1にすぎません。まだ3本目のビジネスの柱がありません。news

日本の会社では、英語のできる人材が少ないために、素質の有無を考慮しないで帰国子女を外国人担当の営業担当者にするケースがあります。海外の顧客とは主に電話でコンタクトを取ることになるので、リスニングの苦手な日本人は敬遠します。英語のうまさだけで担当者が選ばれるわけです。

営業の仕事は人間関係が基本ですから、顧客とこまめにコンタクトを取ることが肝要です。一般に、できる営業担当者は何かと理由を見つけてはお客様と接触する回数を増やします。しかし、下手な営業マンは用件がない限り連絡を取りません。コンタクトが少ないと営業成績に直結します。帰国子女というだけでは優秀なビジネスパーソンにはなれないのです。

ビジネス文書を書く際には、このように「帰国子女に代理で書いてもらう」ということすらできません。英語ができるというだけでは、優れた文書は全く書けないからです。

友達からパーティーに誘われて、行けないと口頭で伝える場合は、
「ごめん。予定があるんだ。いけないよ」
と言います。会話ならこれで十分でしょう。これがビジネス文書になると、ひとことでは済まなくなります。

「先日は祝賀会へのお誘いを賜り、誠にありがとうございました。さっそく日程の調節を試みましたが、当日は動かし難い出張が既にあるため、残念ながら参加ができません。代理の者の出席をお許しいただければ、幸甚にございます」

といった文になります。まず、誘ってくれたお礼を述べ、一生懸命努力したけれど、出席できないという事情を述べます。最後に代理でもいいから出席させたいという誠意を見せます。このすべてが本音かどうかは別として、このように書くのが礼儀です。

それでも、この種のビジネスレターには一定のパターンがありますから、お手本に従って書けば、なんとかなるかもしれません。もっと難しいものは、お手本のない報告書や企画書のような長文です。日本語で仕事上の長文を書いたことのない人には英語の長文は書けません。その逆もまた成り立ちます。

銀メダルからはプロとしての修行が始まる

柔道では黒帯と白帯の違いは歴然です。2段でも初段でも同じ黒色ですが、それ以下が白色であることを考えると、この白黒の垣根が非常に大きいようです。英語では同様の境が銅メダルと銀メダルの間にあります。

プロの道を歩む人たちの勉強法はこれまでと大きく異なります。図表にあるように、銅メダル時代の「通じればいい」と割り切った学習法とでは2つの点が大きく違います。

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第1に、プロの勉強の中心は「読む」「聞く」といったインプットです。銅メダルまでの勉強法が話すこと(アウトプット)を中心としたものであるのと対照的です。「読む」と「聞く」の2つを同時に進めてもいいのですが、優先順位はまず「読む」です(『多読で英語のプロになる』参照)。ビジネスパーソンには特に不可欠です。

第2として、英語に接する時間を長くしなくてはなりません。

大学は、卒業さえすれば、大卒の肩書が一生ついてきます。学んだことを全て忘れたとしても問題ありません。しかし、銀メダル英語は努力を怠ると銅メダルに逆戻りしてしまいます。自転車のように「一度乗れたら一生乗れる」という技能ではないのです。高度な機械ほどメンテナンスが必要であるように、英語力も銀メダル以上になればメンテナンス(日々の勉強)が必要です。

銀メダルになれば、英語学習に伴う精神的な苦しさはだいぶ減っています。しかし、プロは常に英語に磨きをかけなくてはなりません。精神的なつらさより、時間的な負担があるわけです。「通じればいい」レベルでは勉強の主戦場は細切れの時間でしたが、プロになった場合はこの時間では足りません。

どの程度の時間を英語に充てたらいいのでしょうか。1日24時間のうち7時間寝ているとすると、起きている時間は17時間になります。普通に暮らしていたら、この間、日本語で考え日本語脳を使っています。

プロ(金銀メダル)の方は英語脳を使う時間が全体の2割は必要でしょう。それでも8割の時間は日本語です。起きている時間の2割(3時間24分)程度を英語に浸かっていれば上達は速いです。これに対して、ゆっくり上達するのでもかまわないという方は1割(1時間42分)でいいかもしれません。

「3時間半も勉強できるわけないよ」と思わないでください。英語浸けの時間は勉強でなくてもかまいません。銀メダルになれば、社内で1番かそれに近い英語力ですから、そのころには国際部門に配属になったり、海外駐在になったりしています。仕事が、英語を軸に大きく変わっています。英語を使うことが日常茶飯事になっているはずです。

銀メダルになると、「一つのことができるようになった」という達成感を持つことができます。ぼくの場合、自分の本業である金融は「好きで選んだのですから、できるようになって当たり前だ」という意識がありました。これに対して、英語は嫌いなのに一人前になれたのです。「自分でもやればできる」という自信につながったのは本業よりも銀メダルの英語の方でした。

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次回はリスニングについてお話しします。銀メダルと金メダルの大きな差が聞き取りの力です。ご質問やご意見については可能な限り連載の中でお答えしていきます。コメントを拝読しますと、いつもお読みくださっているのが分かり、うれしいです。