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「4W2H」で問題点やニーズを探る

オープンエンドクエスチョン――部下を指示待ち人間にさせない
営業マネジメント手法はサッカーに似ている

さて、現場に入って営業コンサルティングをしていると、つくづく感じることがあります。それは、野球とサッカーで例えるなら、営業マネジメント手法は「サッカー」のほうだということです。
なぜなら、「時間制限がある」という点が理由として挙げられます。
営業活動をするにも、活動時間は無限にありません。そのため限られた時間の中でマネージャは的確でシンプルな指示を部下に出していかなくてはならないのです。
基本的にサッカー選手も営業マンも、動きながら考え、その都度、自分がどう行動すべきかを判断していく必要があります。
反対に野球は、基本的には9回まではゲームが続きます。サッカーほど時間を気にせずじっくりと作戦を練り、監督やコーチがサインを送って、その通りに選手がプレイするよう指示します。
営業マネジメントをしていくうえで、野球のように指示・アドバイスをしたらどうなるでしょうか。
マネージャの視界の中にプレイヤーはいません。どんなに「営業活動の見える化」をしても、一挙手一投足まで監視することは現実的ではないのです。営業個人が動きながら考える、という意味でサッカーに似ていると私は考えます。
そして営業会議は、サッカーで言う「ハーフタイム」ということになるでしょう。ですからマネージャには、タイトな時間の中で組織全体の動きを修正させる能力が求められます。
サッカーと違うところは「延長」がないこと。
コンプライアンスの関係上、労働時間は限られています。お客様との折衝時間は有限です。長い時間をかけて会議をすれば、選手がフィールドで戦う時間を奪っていくだけです。また、プレイヤーが自分の判断で行動を最適化させる努力が不可欠ですから、そのためのリーディングをマネージャ自身がしていかなくてはなりません。
もし正しいリーディングができず、部下が「指示待ち人間」になってしまっていたらどうなるでしょうか。今回も、まず「悪い営業会議」の事例をストーリー形式で見てみます。その後、オープンエンドクエスチョンを使った「良い営業会議」について解説いたします。

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A社の営業会議の様子を読んで、皆さんはどのように感じたでしょうか。「こんな会議は非現実的」「うちの会社はもっとヒドイ」いろいろあるでしょう。しかし会議中に、このような会話をしている組織が現実にあるのです。何が問題なのでしょうか。ここで整理をしてみます。

『A社の営業会議に関する解説』

<現状況>
営業組織が一枚岩になっておらず、「1+1」が「2以下」となっている。
<問題点>
1.会議が時間通りに始まり、時間通りに終わらない。
2.マネージャの思いつきで議論が始まる。
3.議論が散漫で、収拾がつかない……など。

A社の場合、営業会議をするたびに活動の流れが止まっています。サッカーで例えると、ゲーム中に何度も試合を止め、脈絡もなくフォーメーションを変えてしまっているようなものです。しかも問題なのは、その指示が組織全体に伝わっていないことです。したがってフィールドプレイヤーの動きはバラバラです。まとまりがありません。
マネージャがぶれすぎると、部下たちは「学習性無力感」を覚えます。何を言っても無駄だと感じはじめ、事態を改善しようという意識が欠落していきます。
いわゆる「指示待ち人間」になっていくということです。

「尋問」のようにならないよう注意

会社に入社したときから「指示待ち人間」だという人は、基本的にいません。最初から継続的に正しい教育をしていけば、必ず「自分で考える人財」に育っていきます。
それでは、どのような営業会議をすれば上記のような問題は起こらないのでしょう。まず、今回ご紹介する「オープンエンドクエスチョン」というコミュニケーション用語について紹介いたします。

『オープンエンドクエスチョン』

オープンエンドクエスチョンとは、イエス・バット法と同様にコミュニケーションテクニックとしては多くの人が知っている代表的な手法。「4W2H」もしくは「5W1H」などの疑問詞を駆使し、質問していくことで相手の心の中に潜む問題点や潜在的ニーズを探り当てること。
「イエス/ノー」で答えられる質問は極力避けることが重要である。クローズドクエスチョンとは反意語。
オープンクエスチョンはヒアリングの基本である。しかしながら相手とペースを合わせる技術(ペーシング)を活用しながら質問を続けないと「尋問」のようになってしまいがちであり、注意したい。  

 それでは、「オープンエンドクエスチョン」を活用したB社の営業会議を見てみましょう。

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B社の営業会議の様子を読んで、皆さんはどのように感じたでしょうか。「まるで会議らしくない」「これだけで会議が終わっていいものだろうか」などいろいろあるでしょう。B社の会議はどんなところが良いのでしょうか。ここで整理をしてみます。

『B社の営業会議に関する解説』

<現状況>
営業個人が自分で考え、自分の行動に責任を持たせるような働きかけに終始している。
<特徴>
1.会議の目的、宿題が事前に伝えられてある。
2.過去の報告ではなく、改善事項や未来の行動計画のみ取り上げている。
3.部下の意思を尊重し、部下の言葉でコミットさせている。  

最後に、まとめます。

第1回、第2回と同じように、B社の会議はまるで「会議らしく」見えないかもしれません。これはサッカーで言うハーフタイムのようなものだからです。前回解説したとおり、PDCAの「C」ではなく「A」のみを取り上げています。
また、第2回でご紹介した「イエスセット」「バックトラッキング」を今回も比内部長、知覧課長が多用しています。気づかれた方も多いのではないでしょうか。
A社の松坂、B社の宮崎を比べてみてください。会話の中で「はい」「ええ」「そうですね」など、YESを言っている回数をカウントしてみるのです。宮崎はかなりの数のYESを言っています。比内部長や知覧課長が相手を誘導するために事前準備を整えているのです。
そして「なぜうまくいかなかった?」と過去を責めるような質問をするのではなく、「どうすればうまくいくのだろうか」と未来の可能性にフォーカスして質問しています。「イエス/ノー」で答えられるクローズドクエスチョンではなく、4W2Hを使ったオープンエンドクエスチョンで。

相手との信頼関係構築を心がける

自分で答えを導き出すのが嫌で、上司に答えを言ってほしいと期待する部下は意外と多い。しかし正社員として雇用されているのですから、指示をただ待っているのではなく、自分で考える習慣を身に着けていかなければなりません。
前述したとおり、営業がフィールドで戦っているときは、いちいち上司に指示を仰いではいられません。自分で考え、自分で判断して行動する癖をつけていかないと、外部環境が変化したときに対応できない思考となってしまいます。前回紹介した「イエスセット」や「バックトラッキング」を日ごろから多用し、相手とのラポール(信頼関係)構築を心がけていきましょう。
もしも、まだ部下とのラポールが脆弱だとお考えになる方は、じっくりと時間をかけて関係を修正してください。A社のように、過去の問題を取り上げ、寄ってたかって責めるようなことをしてはなりません。