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「起承転結」型の文章、しゃべり方はマイナスでしかない

「結論から先に話す」には訓練が必要です

「いまさら『結論から先に話す』なんて、おまえに言われなくてもわかっていますよ」と、反発されそうですが、本当にそうでしょうか?

私が外資系企業の現場で見てきた現実は、必ずしもそうではないと言わざるを得ません。外資系企業に勤めている人の場合、ある程度海外の人たちの思考過程も理解しているし、「結論から先」というのはわかりきっているはずなのに、この現実なのです。

残念ながら皆さんが思っているほど、この「結論を先に話す」というのは簡単ではないのです。繰り返しトレーニングすることで、そういう思考回路を、自分の頭の中に作りあげないと、とてもグローバルな企業の社長はつとまりません。

ストーリーラインの常識

グローバルな企業の中で、議論をしようとおもうのなら、必ず次のストーリーラインに沿って、話を組み立てる必要があります。海外の教養のある人の文章なりスピーチが、このストーリーラインから外れることはありません。最初に、論点をはっきりさせ、結論を述べます。その後に、論点の根拠を示します。そして、最後に全体をまとめ上げます。(順に、thesis statement、body paragraphs、conclusionと呼ばれます。この単語は憶えておくと役にたちます。)

起承転結は世界の非常識

私たちの受けてきた教育の根幹には、「起承転結」の論理構成があります。小学校の作文から大学受験の小論文まで、すべてこれによった教育がなされています。ですから、私たちの頭の中には、この論理構成が刷り込まれています。無意識のうちにこの論理構成をたどることになってしまいます。まるで、お箸を持つときに無意識に右手がでるように。(左利きの人はそうでもないかもしれませんが。)

残念ながら、この常識はグローバルな企業の中ではまったく通用しません。(もしかしたら、同じ文化圏の中国系、韓国系企業では通用するのかもしれませんが、その点については情報を持っていません。)

起承転結には2つの問題点があります。ひとつはなんと言っても「結」が最後にくることです。最後まで聞かないと、何を言いたいのかはっきりしないことです。

もう1つは、「転」の部分です。「起」で扱う話題を紹介し、「承」で話題を展開させ、「転」で新たな視点から話題の展開を行い、「結」で結論を述べるというストーリーラインに沿った場合、まず間違いなく外国人の方は、「転」の部分で「あれっ」という顔になります。話が切られるからです。わたしたち日本人にとってはあまりに当たり前で、無意識のうちにこのような話の展開の仕方をしてしまいますが、ビジネスの世界では、話をごまかそうという意図に捉えられかねません。

具体的な事例で説明しましょう

あなたは、多くの国で事業を展開する保険会社の、傷害保険の新しい販売チャネル開発の日本における責任者です。ある国でガス会社と提携し、ガスの契約者に対して、傷害保険を大量に販売することに成功しました。そこで、日本を含めた他国でも試行するようにという指示が来たとします。

さらに、ガスの契約者に向けて、ガスの請求書と一緒に保険の加入案内を送り、不要という意志表示をしなければ、自動的に保険加入者にして、保険料をガス料金に上乗せして請求してしまうという、日本人の感覚だと「ぼったくり」とさえ思えてしまうようなやり方が提案されています。

保険そのものはとても小さな保険で、一ヶ月あたりの保険料は100円程度の小さなものですが、勧誘のやり方としては、ネガティブオプションと呼ばれる少々乱暴な方法です。(ところでこれは実話です。こういうやり方が受け入れられるマーケットもあるのです。)

本社から「このプロジェクトの進捗はどうだ」と、電話会議が開かれたとします。「日本でこのやりかたは可能なのか?」という質問にどう反応しますか。

私の経験では、こういう場合の日本人の反応はおおむね次のようなものです。

日本人の回答例

「日本の保険市場は飽和しつつあり、我々としても新しい販売チャネルの開発はなんとしてもやり遂げないといけないことです。そのなかでも、既存のチャネル以外の、新たなパートナーとの提携は最重要課題になっています。顧客のニーズに焦点をあてた新規チャネルの開発には資源を投入してきています。ただ、日本の場合は監督官庁の規制がとても厳しく、公共料金に上乗せした形での保険販売は過去に事例がありません。ですから、このやり方は日本では非常に難しいと思われます。」

この答え方は、外国人に対して非常に不誠実な印象を与えます。まず、質問が基本的にYES・NOクエスチョンなのに、それに答えていないから、「こいつはおれの話を聞いていたのか?」という顔になります。

次に、4番目の文の監督官庁のくだりで、顧客ニーズの話から急に監督官庁の話になり、論理的なつながりが切られてしまいますので、聞いている外国人は混乱してしまいます。「こいつ、なにか都合の悪いことを隠しているんじゃないか?」という顔つきになってきます。

うそみたいに聞こえますが、日本人の場合、上のようなパターンの答えを無意識のうちにしてしまうのです。

では、どう答えるのか 外国人の思考回路

外国人の思考回路に従って答えを作るとすると、例えば以下のようなものになるでしょう。

「このやり方を日本で実現するために、二つの大きな障害を取り除く必要があります。公共企業の場合は多くの規制が加えられているので、保険の販売が公共の利益にどう合致するのかをきちんと説明できるようにすることが、まずとても重要です。また、個々の顧客の購入の意思確認をどう担保するかについて、高いレベルの要求水準を満たす必要があります。これらを満たすための、パートナー、監督官庁、世論への働きかけにかかるコストを抑える方法を見いだすことに、現在全精力を費やしています。」

最初に論点について、条件付きのYesの答えをしています。そして、その論拠を二つの面から示しています。その上で次のステップを含めてまとめ上げています。

どちらの答え方にしろ、やることは変らないのだから、結局は同じではないのかと、言われそうですが、その認識は間違っています。

ビジネスの世界の基本は信頼関係です。相手に対する信頼を失ったらそれで終わりなのです。社長というポジションの場合、株主や親会社との関係というのは、そう密なものではありません。ですからなおのこと、限られたコミュニケーションにおいて、相手に疑念を持たせることは絶対に避けなければいけません。

上記のことは、会議のやりとりだけではなく、会話やプレゼンテーションの場合にももちろんあてはまります。