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スループット計算

[スループット計算は一般的にはスループット会計と呼ばれている。これはスループット・アカウンティングの訳であるが、スループット会計ということばを使ったためか、財務会計やその影響が強い管理会計と比較されることが多い。現在の会計システムをスループット会計に置き換えるべきかどうか、といった議論も散見され、TOCの理解の妨げになっているようである。出きる限り誤解を少なくする意味で、ここでは「スループット計算」と呼ぶことにする。]

原価計算方式

現在ほとんどの企業で行われている管理会計は原価計算方式をベースにしている。原価計算方式は20世紀始め工業生産の規模が拡大し、一つの工場で何種類かの製品を作り始めたとき、工場を管理するために考え出されたものである。

当時のものづくりは冶工具(やぐ、じぐ)と人手が中心で、また労働者は出来高払いで賃金を支払われることが多かった。従って、工場の費用は生産数量にほぼ比例した。生産数量に比例しない、いわゆる固定費の割合はごく少なく、それを製品ごとに配賦しても大きな誤差は生じなかった。

昨今の製造は、生産設備が高速化、大規模化し、組織も分業、専門化が進み、生産数量に比例しない固定費の割合が50%を超えることが多く、時には80%を超える企業も珍しくなくなっている。さらに市場が成熟するにつれて、製品の種類は爆発的に増えている。
*山崎パンも1,800品種から1,000へ効果的な生産体制へ移行「多品種少量生産」見直し

企業の費用構造は大きく変わったにもかかわらず、管理会計は従来とまったく同じ原価計算方式を使いつづけている。製品と関連のある費用は材料費と外注費などに限られ、その他の大部分の費用は、製品の生産数とは関係なくなっている。にもかかわらず、製品に比例しない費用を何らかの理由をつけて製品に配賦するために、それから導き出される結果は誤差が大きくなり、誤った判断が下されてしまうのである。その改善を図るためABC(Activity-Based Costing;活動基準原価計算)が提案されているが、固定費を配賦することに変わりはなく、従来の原価計算の根本的な問題は解決できていない。

スループット計算

スループット計算は、スループット、在庫/投資、業務費用の三つの概念の上に組み立てられている。

  • スループット(T);会社が販売によってキャッシュを生み出すスピード
  • 在庫/投資(I);販売するために費やした購入費
  • 業務費用(OE);在庫を販売に変換するために費やした費用

スループットとは「売上-真の変動費」である。また、

グロービスのMBA経営辞書の解説

製品を販売して得られるキャッシュから、製品を販売するために投資したキャッシュを引いた額。SCM(サプライチェーン・マネジメント)の基本理論である制約理論(TOC)の評価指標として用いられ、以下の式で表現できる。
部分最適では、ある工程の生産効率だけが向上し、その結果、工場全体の生産能力や全社の収益に全体の収益に繋がらない場合がある。そこで、スループットの最大化を目指すことで、全体最適を実現する。「真の変動費」とは、原材料や輸送費などの変動費のみで、原価計算では含める減価償却費や光熱費、労務費などのいわゆる工場経費は含めない。
また、「スループット会計」では、制約工程での単位時間あたりのスループットをもとに、収益性を判断する。

利益(NP)=T-OE

投資利益率(ROI)=(T-OE)/I


従来の原価計算とスループット計算の主な違いは、 

 スループット計算原価計算
費用(償却費、人件費、光熱費、間接部門費など) 製品(在庫仕掛りを含む)に配賦しない。 製品(在庫仕掛りを含む)に配賦
制約 制約 制約を認識する 制約を認識しな
製品ミックスの最適化 可能 可能 できない
個別原価 存在しない 個別原価を算出する
利益 T-OE 売値-原価

業務費用を製品に配賦しない

 原価計算とスループット計算の大きな違いの一つは、スループット計算では、業務費用を1個1個の製品に配賦しないことである。工程の途中にある仕掛りにも配賦しない。従って在庫の増減によって、利益が変動することはない。原価計算では、売れない製品でも生産をし、在庫を積みますと、その月の原価は安くなり、利益が増えたように見える。

制約を認識する

スループット計算は、常に制約の場所を認識する。制約がシステムの能力を決定する重要なファクターだからである。制約を認識することなく、工程改善を進めても、それが利益の改善につながっているかどうか、判断できないのである。制約でない工程の能力を上げても、生産量が増えるわけではなく、その工程の未稼働時間が増えるだけである。制約工程の改善のみが生産量を増やし、スループットが増え利益増につながるのである。

製品ミックスの最適化

どの製品を造れば一番儲かるか、を見るとき、原価計算では製品1個の原価を求め、それを売値から差し引いて利益を算出し、その利益の大きさで判断する。しかしこれは、業務費用を製品に配賦するために原価情報がゆがめられ正しい結果が出てこない。この点から、スループット計算では「1個原価は存在しない」立場をとる。スループット計算では、始めに製品ごとのスループット(T)を求める。製造に制約がない場合は、このスループットの大きさが優先順位となる。製造に制約がある場合は、制約工程の時間当りのスループット、すなわち「製品のスループット/制約工程での加工時間」値の大きさで優先順位が決定できる。