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困難な状況に耐える

◆困難な状況に耐え、素早く回復する能力、強靭な心を持つ

最近責任を避ける人が多くいます。失敗を怖れて、自分が責任を負うことを回避しているのです。または自分の実力を超える責任を求め、周囲の予想通りに失敗し、心が折れて再起できなくなる人もいます。

安倍総理が打ち出している強気のメッセージも日本人の心理に深く影響していると思います。東日本大震災からの復興、強い経済を取り戻すための再生、そして2020年の東京五輪へ向けての国家としての再生など、長い停滞が続いた流れを上向きに変え、力強く成長しようとする前向きさが感じられます。

安倍総理本人が政治家としてのキャリアのどん底を味わい、そこから再び立ち上がった人物であるため、政府から伝えられる「再生メッセージ」には今までの総理にはなかった意志や感情が込められているようで、私たちのこころに響くのかもしれません。

しかし「失われた20年」の悪影響はまだ残っています。この20年は停滞した時期が続いたせいか、日本人全体が「無理」をするのをやめていたように感じるのです。

バブルの失敗を経験してから、身の丈に合った会社経営、そして個人の生活までシフトされました。肩肘張らない自分らしい生き方を否定するわけではありません。むしろ、自分らしくオーセンティック(正当、本物)な生き方は幸せにつながるので、推奨したいくらいです。

でも、これまでの日本人はその意味を間違えて理解してきたような気がするのです。新しいことや困難を前にしときに、「無理」をして、一歩前に踏み出すよりも、失敗を怖れ、新しい挑戦や困難から逃げる。この「無理をしない」ことを、自分らしい生き方とすり替えていないでしょうか。

確かにチャレンジが失敗に終わるものなら、なぜ失敗したかを考えるよりも、自己否定ばかりしがちです。また、挑戦する人を批判する風土があることも事実です。

でも失敗を怖れてばかりいては、何一つ新しい物事が生まれません。「無理」とは、無謀や無茶とは違います。たとえば充分な貯金もないのに独立・起業して家族に貧しい思いをさせる40代サラリーマンは「無謀」ですし、何日も不眠不休で働くことは「無茶」です。無謀なことは成功する確率が低く、無茶な行為は長続きしません。

私が言う「無理をする」とは、失敗を怖れずに新しいことや困難に挑戦することです。しかもしなやかで合理的で柔軟な思考を持ちながら、チャレンジをする。その結果失敗したのなら、速やかに立ち直り、そこから学ぶべきことは学び、より賢くたくましくなって新しい挑戦をしていくことなのです。

失敗への怖れを生む「無理」ができない行動回避の心

国や経済だと遠い話かもしれませんので、個人のビジネスマンとして「失敗を怖れる」とは何でしょうか。

答えは簡単です。あなたが仕事上で嫌いだなと感じる場面を思い浮かべてください。

「新規プロジェクトのリスクが気になり、やめる理由ばかり探してします」「そのプロジェクトのリーダーを命じられた」という大きな責任を背負った場面がそうです。
「いやな仕事は先送りにしてしまう」「新しい目標をたてても三日坊主に終わってしまう」というようなついやりがちなこと、「ミスをしてもなかなか報告できない」「初めてのお客様に営業の電話をすることができない」など、心の問題になっていることも失敗を怖れている結果でしょう。

これらは本来やるべき行いを無意識に避けてしまう「行動回避」という癖のようなものです。そして行動回避をする人の口癖が「無理!」といって断ることなのです。「この仕事をやってくれないか」と指示されると心の中で「無理です」と答える。

新しい試みや仕事に対して「無理」と言いながら行動回避する人の内側には、ある共通の真理があります。それは「失敗に対する怖れ」です。「失敗は悪だ」「面倒なトラブルに直面したくない」という心理が、失敗につながるリスクのある行動を無意識のうちに回避しようとするのです。行動回避したくなる気持ちは、程度の差こそあれ誰の心にもあるものです。実際に少なからず行動回避してしまうこともあるでしょう。でも、行動回避が癖になったら、どうなるでしょうか。

日本の「失われた20年」と同じになると思いませんか。自分の人生やキャリアがどことなく低調な状況が続く、あるいはさらにひどい不幸な状態へと降下してしまう。そんな気がしないでしょうか。

ビジネスで言えば、仕事でなかなか成果が上げられない状態がこれにあたります。特に新規顧客開拓の営業のような不確定要素の高い仕事や、全権を持たされるプロジェクトなどを任せられると、何をしていいのか分からずに脳がフリーズしてしまいます。新しい仕事をする人材が求められ、本人にとっては好機となりうるチャンスは訪れても、決定することができずに先延ばしにして、キャリアの転機となる貴重な機会をみすみす見逃してしまう人も少なくはありません。

企業の多くはアジア新興諸国に積極的に進出し、将来の成長を期待していますが、海外で活躍できる機会が訪れても「英語ができない」「子供の教育が心配だから」などの言い訳をして行動を回避してしまうのです。
企業についても同じことが言えます。「失敗は悪だ」という社風が染み付いた会社は、ビジネスの好機が訪れても「前例がない」「うちの会社では無理だ」と言い訳して、今すぐに行動できず、国内の競合他社だけでなく、韓国や中国の企業にビジネスチャンスを与えてしまいます。

極論かもしれませんが、私は「行動回避の癖のある人は幸せになれない」と考えます。
特にビジネスマンについてはそう確信しています。ビジネスでの充足感な幸せの瞬間は、無理とも思える挑戦に向かい、自分の能力を最高レベルで発揮させる背伸びした状態でもたらされることが多いからです。

難しいことに挑んでいるときに、疲れも感じず時間が経つのを忘れてしまう。恍惚感ともいえる体験をすることがあります。そして高い目標を乗り越えたときには、達成感が得られます。達成感は幸せの要素となります。

しかし失敗を怖れて行動を回避する癖のある人は、自分の「快適ゾーン」という安全心理領域に引きこもる内向きの働きをしがちです。だから充実感や幸福感を体験することが少ないのではないでしょうか。

失敗を恐れるあまり、本当にやりたいことを我慢している人も少なくありません。これも行動回避の一種です。「家族の生活のことを考えて我慢している」というと聞こえはいいのですが、逃げている行動であることには変わりありません。「準備ができたらやりたい事を始める」という人もいますが、これも言い訳です。

行動回避を続けているうちに慢性的な不満が生まれるだけで、あまり幸せになれません。心の中に巣食った慢性的な不満は、ストレスを溜め、自分をいらだたせるだけではなく、仕事の充実感や人生の幸福感をゆっくりと、しかしながら確実にむしばみます。じわりじわりと私たちを不幸に感じさせてしまうのです。

この考え方は、私の経験が示すように心が折れそうになる逆境から立ち直るための技術でもありあす。

このような回復力や折れない強靭な心が必要な理由

ビジネスエリートが持つ共通点に、失敗から立ち直り逆境を乗り越えて成長する考え方があると思います。具体的にその必要性を説明しましょう。

一つ目に現代社会の「心の健康」の問題があります。
ストレスや多忙で精神が疲労している人が増えています。特にうつ病は社会問題となっており、職場でのうつ病は深刻です。うつ病にかかりやすいのは女性や若い人が多いように思えますが、注意が必要なのは40代から50代のミドルです。「中年の危機」と言われるように、体の老化とともに精神面でダメージを受けやすくなり、将来のキャリアに限界を感じてしまうと希望が失望に、やる気が無力感に変わってしまうからです。

ビジネスマンにおいてキャリアは長期戦です。無茶をしてハードワークをする「短距離走」のような働き方も時には必要ですが、長続きはしません。むしろマラソンランナーのように、ペースを落とすことなく長い距離を走りぬくための「長距離走」的な働き方を必要としています。

ポジティブ・シンキングとは違う

私は「失敗への怖れ」は揉んだと述べました。怖れ、不安、心配といったネガティブな感情は私たちの積極性を奪います。しかし私は「ネガティブな思考や感情は悪だ」とは考えていません。そして「ポジティブになるべきだ」とも考えていません。