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逆境に負ける人、のし上る人

ビジネスの世界では、左遷や降格などの逆境を避けられないことがある。
私自身、リストラならぬ降格を二度ばかり経験した。どちらも上司との人間関係が原因だったが、一度は本社の課長から支店の課長へ、次には部長から営業所の次長へと左遷させられた。

考えてみるに、逆境はビジネスの世界に限ったことではない。
そして、逆境にあっていかに対応するか――逆境をバネとして再び飛躍するかそれとも甘んじるのか、ある意味ではそこが人生の分かれ目と云っていいだろう。極論を云えば、逆境にあっての身の処し方が人間の価値を決めるとも云えるのだ。

現在、若手経営者の後見人として何社かの面倒をみているTさんもまた、逆境を経験した人である。
彼は一部上場企業のR社において40歳という若さで取締役に大抜擢されながら、それから数年後には職を解かれるという憂き目にあった。営業の統率者として業績を上げていたTさんが取締役を解任されたのは、ひとえに、経営トップとの確執にあった。

“組織とは、ビジネスマンの世界とはこんなものか……” 解任宣言に対する怒り、憤り、そして敗北感などが心に渦巻き、“自分が築いてきた営業ルートをライバル企業に提供して見返してやるか”との考えがTさんの脳裏をかすめたとしても不思議ではない。事実、一時期はそれを行動に移すべく、準備にも着手した。

 だが結局、Tさんは心を落ち着かせるにともない、“せっかくのチャンスだ。もう一度自分を見つめ直そう”との結論を出すに至る。
Tさんの心の奥底には、“仕事ができさえすればと、どこかに傲慢なところがあったのかも知れない”との思いも芽生えていたからである。

“手当たり次第、本を買い求めたし、座禅も組んだ。でも、人間はそんなにすぐに変われるものではない。『誰々の言葉や教えに感銘を受けて生まれ変わった』 とよく聞くが、生まれ変わるというのはそんなことではない。そもそも、二、三日も過ぎるとその感銘もすぐに忘れてしまう。でも、何回かそれを繰り返してい るうちに自分を客観的に見られるようになるものだ”

“『仕事の鬼』などと呼ばれていい気になっていた部分を反省するに至った。他人を思いやる気持ちに欠けていたことを悟った”
浪人生活四年。ついに、営業に抜群のリーダーシップを発揮したTさんに、ある会社が白羽の矢を立てた。
そして15年。会社再建という目的を達したTさんは後進に道を譲り、現在では数社の顧問や相談役として若手経営者の指導にあたっている。

Tさんの例を見ても、逆境にあってはいかに自分を「客観視」できるかがポイントとなることがわかる。判断が客観的になればゆとりが生まれる。ゆとりが生まれれば正しい判断も可能になってくる。逆境にあって心すべきは、「焦らない」ということである。勝機 は必ずまた訪れる。その機を逃さぬように、自分という玉を磨いて、じっくり機をうかがっているのがよいのである。